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学校の怪談  一人目 語り部(木下栄作) Aルート「泣き声」 その1

学校の怪談
08 /08 2017
夜の体育館

A.道具をキレイにしている時 より分岐

確かに道具を綺麗に使ってると、気分よく部活に専念できるよな。
なかなか殊勝な心掛けじゃないか。
お前も知っていると思うが、うちの高校はスポーツには力を入れているんだ。
県内の高校でスポーツに本腰を入れたいならココ!ってくらい、施設が整っているからな。
陸上部やテニス部、ハンドボール部が利用しているグラウンドにバスケ部とバレー部の使う緑色のアーチ型の屋根が目印の体育館……。
これだけなら普通?
言うと思ったよ。
まだまだこんなもんじゃないぜ。
サッカー部員が腰を低く落とし、実戦形式でよく試合している人口芝の練習場。
瓦屋根が特徴的な日本家屋を思わせる佇まいの武道館では柔道部や剣道部が日々心身の鍛練を積んでいる。
水泳部には、雨が降っても部活ができるように室内温水プールまで完備ときた。
合宿も校内に常勝館って名前の食堂兼宿泊施設があるおかげで、朝から晩までみっちりしごいてもらえるぞ。
それにうちの野球部は数年前に選抜4位まで勝ち進んだ実績もある。
どうだ、すごいだろ?
……ああ悪い、スポーツの話になったもんだから、つい話し込んじゃったよ。
ようは学校がスポーツに力を入れている分、練習内容も厳しくて、新入生が入部してもすぐ退部しちまうってことさ。
一年生が五十人近く入部しても、三年生になる頃に一割程度しか残らないなんてザラだからな。
運動部は年功序列だから基本的に球拾いや練習後の後片付けみたいな雑用は一年がやるんだが、せっかく残ってくれた一年に押し付けるのは気が咎めるからさ。
お前みたいな備品を大事に扱ってくれるやつがマネージャーだったら大助かりだよ。
ただ年功序列であることに文句を言うつもりはないぜ?
俺の通っていた中学では部活動は強制だったから、嫌で嫌でしょうがない奴もやらざるをえなかったが、この高校はそうじゃないからな。
本当にそのスポーツが好きな奴だけが集まって、周囲と競い合い、時には協力し合いながら三年間限られたレギュラーのポジションを勝ち取ろうと奮起するんだ。
一年だろうが二年だろうが三年だろうが、それは変わりない。
だから一年間の雑用は、細かい砂利の中から金を選別するようなもんさ。
ふるい落とされるやつは、遅かれ早かれ辞めていく。
この程度のことに文句をつけるような奴には高校の部活動なんか務まらねぇ……、お前もそう思わないか?
これからするのは部活に堪えかねたバスケ部の一年の話だ。
そいつの名前は小池っていってな、名前と違って180超えの長身で将来を期待されていたんだ。
中学に入学したては160ちょっとで中学生の平均身長くらいだったらしいが、育ち盛りだからかその後ぐんぐん背が伸びて、中学の二年になった頃には10㎝も伸びていたらしい。
他の生徒達よりも一回り大きな身長と恵まれた体格の小池を誰もほっとくわけがなかった。
長身であることが有利なスポーツなんか、いくらでもあるしな。
そうして当時のバスケ部員に促され、奴はバスケを始めたらしい。
運動経験が少なかったからか入部した当初はぎこちない動きで周囲から笑われていたが、徐々に他の部員と比べても遜色ないボール捌きになっていった。
ただ中学の大会で結果を残せたわけじゃないから、うちの高校へは一般入試で合格し、進学したようだ。
ん?
なぜ、わざわざ一般入試だと強調するのかって?
クク、それはそのことが今回の話に絡んでくるからさ。
小池と同学年に田嶋っていう一年の特待生がいてな、不愛想なやつなんだがそいつは先輩からも可愛がられていたんだ。
……悪い意味でじゃなくていい意味で、だぜ。
バスケ部には旧態依然のしごきや伝統があるんだが底意地の悪い二年、三年の連中でも特待生に手を出して万が一告げ口でもされたら、自分たちの心証を損ないかねないって知恵は働いたみたいだな。
いい先輩を演じていたんだ、表面上は。
田嶋は幸運にも校内試合で得点をバンバン稼いですぐに背番号2番、シューティングガードのレギュラーの座を獲った。
―――ただ不運なのは田嶋への嫉妬や恨みなんかのどす黒い感情が、田嶋以外の他の一年生へ向けられたことだ。
話の流れで勘付いたか。
特に小池へのしごきは酷かった。
田嶋ほどではないにせよ小池も顧問の横井先生から目を付けられていたし、何より他の部員よりデカいから好プレーをすれば、みんな小池に釘付けだった。
もし小池が早くにバスケをやり始め、もし大会で活躍できていたら……。
今頃は田嶋と肩を並べていたのかも知れないと思うと、運命の神様ってのはつくづく気紛れでタチが悪い。
さて、小池が受けた嫌がらせやしごきを喋っていくか。
まず嫌がらせは新入部員の入部の時の自己紹介から始まった。
普通なら自分の氏名と中学時代のポジション、希望しているポジション、特技なんかを言って終わるだろ? 
だがバスケ部ではな、その時アドリブで一発芸をさせられるんだ。
その様子を上級生はニヤつきながら、夜目を光らせた猫のように、一年共をまじまじ見やがるのさ。
一人目のやつが自己紹介を終えると、顧問の後ろでサルがシンバルを打ち鳴らすみたいに手を叩きながら小馬鹿にした態度を取っていたり、即興でその一年の物真似をし始める部員までいたっけ。
そのせいで、ほとんどの一年は飛んでいる蚊でも追いかけるみたいに視線をそわそわさせて、自己アピールすら満足にできていなかった。
その逆境の中、小池は昭和歌謡を歌い上げたんだ。
月末に母親に連れられて、近所のカラオケのあるスナックによく行っていたらしくてな。
母親の十八番の曲を耳で覚えていて、その歌をみんなに披露したんだ。
もしかしたら周りが上手く自己主張できていないから、この場で目立てば自分を覚えてもらえると踏んだのかもしれない。
いい根性してるよな。
横井先生は小池の母親と同年代で、その曲のことを覚えていたんだろう。
拍手しながら
「ハハハ。小池、なかなか上手じゃないか」
と屈託のない笑顔で大笑していた。
「他の新入生たちも小池のように臆せず、自分の持ち味を私に見せてほしい。それが自分のため、チームのために繋がるのだからな」
真剣な面持ちで一年生に告げると緊張が和らいだのだろう。
他の一年生たちも、小池のように思い思いにネタを披露しだした。
しかし小池のアピールが成功したことを、当然上級生たちは気に食わない。
これが切っ掛けで、小池は陰湿な嫌がらせや苛めを受けるようになったのさ。
朝練ではしばらくの間、田嶋以外の一年生はボールに触らせてもらえなかった。
「なんであいつだけ……」
体育館の隅で羨望の眼差しで見つめながら、独り言のように小池が呟く。
他の一年生たちは聞こえない振りをしていた。
本心では田嶋が羨ましかったが言葉には出さず、黙々と準備運動と自主トレーニングをこなしたり、あるいは応援を送ったりと、自分のできることをやっていた。
練習を終えると、小池の元に恰幅のいい坊主頭の岸という三年生が近付いてきた。
いつも眉間に皺を寄せた険しい顔をしていて、図体がデカイから、かなり迫力がある。
「小池ェ、焼きそばパン食いたくなっちまったから今から買ってこいよ。買ったら3―6まで届けろよ、いいな!」
体育館の時計の針は八時を回っている。
始業は八時十分だ。
今からですか、言いかけた言葉を飲み込み、小池は脱兎の如く駆けた。
それからというもの学校から五分くらいのコンビニへ、連中はことあるごとに自分たちの昼飯を買いにいかせた。
しかも一限目の授業が始まる数分前に、だ。
それと飲み物は決まって炭酸飲料だった。
何故だか分かるか?
炭酸は振ったら泡が吹き出てくるだろ?
制服でも濡れたら、自分たちの嫌がらせを正当化する口実ができるからな。
やれお握りの形が崩れただの、品切れで他の物を買えば頼んだものと違うだの……理由なんてちっぽけなものだった。
小池がこういうポカをやらかした時に、連中はマイクを手に握りしめた形をさせて小指を立てながら、小池が自己紹介の際に歌った歌詞のワンフレーズをしつこく口ずさんだ。
小池も初めのうちは笑ってやり過ごしていたが
「お前、こんな歌が好きなのかよ」
「カビの生えたような古臭いもんが好きなんだなぁ」
などと悪口を吐かれている、と自分の事のはずなのにまるで親を愚弄された気がして、怒りが込み上げていた。
だが拳を握り締め、何とか堪えていたんだ。
ただ苛めってのはな、増長したやつが度の過ぎた暴力を加えてきて、ネズミ算式にだんだん酷くなっていくものなのさ。
そうなっていくのに時間は掛からなかった。
六月の早朝、真っ黒のコンクリート道路を、小池は息を切らして必死に走っていた。
前日にどしゃ降りの雨が降ったからかグラウンドの土は泥濘んでいて、ぐにゃぐにゃとした感触が靴越しに伝わってくる。
それでも小池は歩を止めなかった。
「早く!早くしないと!」
焦燥感が小池にそう言わせた。
先生から鍵を貰い、体育館に入って辺りを確認するも中には誰一人いない。
良かった、先輩たちはまだいなかった。
小池は安堵した。
体育館には体育館のフローリングと素足の擦れるキュッキュという音だけが寂しく響いている。
そのまま小池はロッカールームへ向かった。
汗の酸っぱい匂いに顔を歪めながら、ロッカーの扉を開く。
「ああ、あった!」
小池の視線の先には汗塗れのクタクタになったタオルが置かれている。
タオルを手に取り持ち上げると忘れていたバッシュが見つかった。
少し早いけど、せっかくだから自主練しよう。
小池がバッシュを履いたその時だった。
冷たく細長いニュルニュルとしたものが、爪先や足の間を所狭しと蠢いて絡み付いたのさ。
「ヒャア!」
思わず情けない声を上げ、履いていたバッシュを脱ぎ、眼を凝らす。
が、よく分からない。
意を決してバッシュを覗くと中には何匹もの蚯蚓が、ナメクジが交尾でもするようにうねうねと身を寄せあっていた。
「もう、いい加減にしてくれよ……」
小池はロッカールームで人目を忍んで泣いた。
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yuu_garakuta

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