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学校の怪談  一人目 語り部(藤見穣) Aルート「カーテン越しに潜むモノ」 その1

学校の怪談
08 /13 2017
カーテン

A.それだけ科学で説明できないことが多かったからより分岐

野村くんの言う通りです。
著しく科学が発展したことで、今までは「怪奇現象」として扱われていた現象が正しく説明できるようになってきました。
例を上げていくとラップ音は湿度、温度変化によって木材などが収縮、膨張をした際に発生する軋みの音で、俗にオーブと呼ばれるものはレンズに付着した微小な水滴や埃が、フラッシュの光を反射したに過ぎません。
ちょうど僕の両親が学生の時に流行ったこっくりさん、あれは不覚筋動と呼ばれる無自覚の筋肉の微動で硬貨を動かしているのです。
ちなみに質問者たちの知っていることしか、こっくりさんは教えてくれません。
聞いたら何でも答えてくれる霊なんてものは存在しないんですよ。
……多分野村くんは、僕のことを理屈っぽいって思ってますね。
でも「怪奇現象」でないものをさも霊が引き起こしたと言い張るのは白を黒と言い張るくらい無茶苦茶ですから、自分に嘘はつけません。
こうした「怪奇現象」を人間たちのコントロール下におくには、「対抗策」が必要になります。
都市伝説の口裂け女を知っていますか?
名前の通り何らかの理由で口の裂けた女なのですが、あの「怪奇現象」はポマードと三回唱えることで追い払えます。
これが口裂け女への「対抗策」ですね。
しかし、出会った霊の「対抗策」がなかったら?
科学で説明できなかったら?
意図や目的すら分からなかったら?
今からする怪談は、正体不明の「怪奇現象」に遭遇した二人の少年の話です。
パソコン部に所属している西くんと町田くんは中学校から家族ぐるみの付き合いがある大の仲良しで、二人は10月上旬に催される文化祭で発表する学校紹介の動画に使う画像を撮るために、昼休みに机を向かい合わせて、企画を練っていました。
「マッツン、どこ撮ろうか」
「う~ん。まずは正門から校舎全体を映して、後は適当に運動部の活動風景の撮影かな」
「うちはスポーツ強いからなぁ……。大会で結果を残した年次の集合写真とか、トロフィーとかもいる?」
「うん、使うかも」
「りょーかい。てか、分担した方がいいな。俺は今日の放課後に写真撮ってくるから、マッツンは動画の方、進めといて」
思いの外企画は簡単に組め、帰りのホームルームを終えると西くんはデジカメを持って、町田くんの方を向いて微笑むと教室を飛び出ていきました。
パソコン部に入ると
「町田、西はどうした? いつもはさくらんぼみたいに二人一緒にくっついて歩いてくるのに。風邪でも引いたのか?」
顧問の坂本先生が、こらえきれずに体全体を揺らしながら笑って訊ねてきました。
禿で出っ歯の坂本先生の笑う姿に、水族館のショーで見たアシカの笑顔を重ねつつ、町田くんは返事をします。
「西くんは動画用の画像を撮影しているので、今日は来れるか分かりません」
「そうか。満足いくものを制作できるように頑張れよ。皆にも話しておいたが、うちの学校は9時まで居残りできるからな」
「いえ、自分の家にパソコンがあるので、間に合わなそうなら自宅で作ります」
ペコリと頭を下げ、部屋の奥のパソコンを起動しAviutlを開きました。
……あ、野村くんが知っているか分からないので一応Aviutlについて、説明しておきましょう。
これは無料の動画編集ソフトで、拡張編集プラグインと呼ばれるファイルを解凍し導入することで非常に多機能な動画編集が可能になります。
で、町田くんは取り敢えず昨日西くんが録画してくれた動画に問題がないか、どの部分を削ってどの部分を残そうか、頬杖をつきながら動画と心電図のような音声波形をぼんやりと眺めていたんです。
まず校門をくぐって上空を見上げると、水平線から登ってくる太陽の淡い光と空を覆い隠すように発達した雲、学校の時計台が映り込み、視線を落とすと陸上部員がグラウンドのトラックを走っていて、これはいると心の中で呟きました。
そのままグラウンドを突っ切って昇降口に入ると、同級生たちがカメラを持っている西くんを囲んでピースをしている場面に切り替わりました。
皆には悪いけどこれは全部カットだ。
そうやって必要な部分を選りすぐって逐次切り抜いていくと、ちょうど三分程度の動画になり、最後に軽くパソコン部を紹介するつもりだったので、動画の一番最後に部室を映した映像を挿入しました。
一通り作業を終え、気が抜けた町田くんが体を伸ばし欠伸をかくと
「おいおい、寝不足かぁ」
隣の席の副部長、三年生の矢野くんが声を掛けてきました。
「先輩は『RPGツクレール』でどんなゲームを作ってるんです?」
「パソコンに使い慣れていない新入生にRPGは敷居が高いだろうから、単純なノベルゲーを作ることにした。それはそうと、そっちの作業は進んでいるのか?」
「ちょうど大まかに完成したところです」
町田くんが云うと矢野くんは椅子から立ち上り、横から覗き込みました。
「見せてくれ」
促され、町田くんは動画を初めから再生していき、通しで動画を見せました。
「どうですか、先輩」
「動画自体は過不足なく、よく仕上がっていると思うんだが、何故か違和感があるんだよ」
矢野くんは握り拳の上に顎を乗せ、何やら考え込んでいましたが、町田くんにはその理由が分かりませんし、直すべき部分があればはっきり言ってほしかったので
「どこが気になりました?」
と聞きました。
「なら、最後のパソコン部室をもう一回流してくれるか」
「分かりました」
いったい誰もいない部室を数秒映しただけの場面の、何が問題だというんだ。
苛立ちを覚えながらも、言われるがままに巻き戻しと再生を繰り返します。
「もう一回頼む」
矢野くんに乞われ見返すうちに、町田くんは漠然とした不安を覚えました。
早朝に撮った動画で校内は電灯の明かりがないため仄暗く、特にパソコン部はパソコンに直射日光が当たらないようにカーテンを閉め切り光を遮っていますから、特に闇が濃く感じたのでしょう。
「もうやめにしましょうよ」
町田くんが言ったその時です。
「おい! 今の所を巻き戻すんだ!」
怒気を孕んだ矢野くんの声が部室中に響き渡り、気になって部員の皆が、町田くんと矢野くんに視線を向けました。
尋常でない様子に町田くんは
「あの、具体的には何分何秒ですか?」
と、ただ聞き返すことしかできませんでした。
「3分16秒辺りだな」
言われた通りにしても、町田くんにはさっぱり問題点が分かりません。
彼の目にはただ二十数台のパソコンと黒板、靴箱のような茶色のカラーボックスが二つ置かれているだけの、必要最低限の物しかない簡素な空間が広がるのみでした。
「町田、ここだ。カーテンを見てみろ」
カーテン?
指差す方に目を遣ると、左右両方のカーテンがひらひらと風に揺れると―――ガラスに顔を擦り付けた女が立っていることに気がついたのです。
「わぁっ!」
なんなんだ、この女は!?
なんで、こんなことをしているんだ。
第一部室にはベランダがないし、外に人が立てるスペースなんかないぞ!
驚愕した町田くんの頭の中に、様々な疑問が駆け巡ります。
矢野くんは顔いっぱいに深い皺を刻み、苦虫を噛み潰したような表情で黙りこくって、一言
「これはよくないものだから、撮り直した方がいいかもなぁ」
とだけ呟きました。
「よくないものって……」
僕にはこの時の気持ちが、自分のことのように理解できますよ。
本当は彼にも、ガラス越しにいた何者かが超常的な存在であることなど分かっていたんです。
でもそれを信じたくないから、矢野くんが論理立て説明してくれるのを期待していたんでしょう。
ですが、その思いは粉々に砕かれました。
「幽霊とか妖怪とかバケモノとか、呼び方はいろいろあるから好きに呼んだらいいんじゃないか」
しかし認めたくない町田くんも、必死に食らいつきます。
「あの! 脚立を使えば部室のある二階のガラスにだって届きますし、イタズラの可能性も……」
「……ホントにそこまでして、手の込んだイタズラすると思うか? 万が一バレたら坂本先生にどやされるかもしれないのに?」
矢野くんは唇の片端を上げ、呆れたように嗤いました。
「部活の紹介部分は必要ないと思うぞ」
「はぁ、分かりました」
どこか釈然としませんでしたが、薄気味の悪い動画をそのまま放置するのも忍びなく指示に従い、この日は西くんと途中で同行し、そのまま一緒に帰宅したようです。
……ですが彼らの本当の恐怖は、ここから始まりました。
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yuu_garakuta

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