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恋愛・青春小説 「pike start」   原田夕花の奮闘編 その2

恋愛・青春小説「PIKE START」
08 /18 2017
道路を道なりに進むと、緩やかな弧を描く屋根の建物が見え、やっと汗でびしょびしょの服を着替えられるのかと俺は安堵のため息をこぼした。
シーズンだから想定していた通り、市民プールには涼みにきた家族連れの客でごった返している。
特に車場には、ずんぐりした車体の軽自動車が隙間なく駐車されており、その様子はさながら集団越冬するために、互いに体を密着させて寄り集まるテントウムシとでもいうべきか。
「夏だから混んでるな」
「そ~ですねぇ」
ちらりと横目で窺うと、原田は牛が牧草を反芻するみたいにワッフルコーンをちびちびかじっては咀嚼する動作を繰り返している。
「みっともないから、中に入る前に完食するんだぞ~」
俺がいった途端原田は大口を開けて、素早く残ったコーンを放り込んでいった。
「あんまり上下関係を押し付ける気はないけど、締めるところはちゃんと締めて、指導に取り組んでいくからな~」
軽く頭を叩くと、ボリボリと小気味のいい音を立てて噛み砕きつつ、眉間に皺を寄せている。
正直自分より一回り小さい原田がどれだけ怒ったところで、全く怖くない。
チワワが柴犬に対してキャインキャイン吠えても、柴犬は意に介さないどころか、尻尾を振って好奇心を示すだけなのだ。
「ひぇんぱぅはぐどぉれふぅ」
食事しながら会話しようと試みているらしいが、言葉になっていない。
「先輩はブドウですぅ? 俺はブドウじゃないよん。ユ、ウ、カちゃん」
手に耳を当て、聞き返した。
俺がおちょくられていたら、口より先に鉄拳を飛ばしていたことだろう。
しかし原田の仕返しは可愛いもので、目を瞑り、舌を出して、あっかんべーしてくるだけだった。
ベロは淡い水色に染まっている。
そういえば、ミントアイスを頼んでたか。
出入口に近付くとガラス製の自動ドアが開き、むわっした熱風が一瞬吹き抜けた。
が、館内はクーラーがガンガン効いており、むしろ寒すぎるくらいだった。
子連れの夫婦ばかりでカップルと思しき二人組は少なく、行列に並ぶのは周りの目を考えると若干気恥ずかしかった。
「長蛇の列ですね」
「そうだな。アイスで手が汚れてるだろう。ホレ、ハンカチ」
「おっ、気が利きますねぇ」
「お前、何様だよ」
当たり障りのない会話がしばらく続いたが、会話にほとんど間がなかった。
ただ二人とも話すのが早いだけか?
内心では、焦っているのかもしれない。
「そんなに心配しないで大丈夫だから。笑え笑え」
俺は唇の両端をめいっぱい吊り上げた。
わざとらしい笑顔になっているだろうが、水への恐怖感を抱いていて、それでも文句一つ言わず健気に付いてきてくれている原田の気持ちを推し量ると、なんとかして緊張をほぐしてやりたかったのだ。
目が合うと原田はすぐ視線を外し
「き、昨日は何のテレビ観てました? 私は家族と一緒に『邪怨』を視聴してましたぁ」
と、動揺を誤魔化すようにまくしたてた。
「え~っと、四時間スペシャルの『心霊映像100連発』って番組。けど、動画サイトで見た映像ばっかでさ。つまんないから途中で消してメールの返事してたよ」
「へぇー、誰とやり取りしてたんですか」
「小早川と」
『小早川』、その名前を聞くと、原田は顎の外れた猫みたいな表情を浮かべていた。
「おいおい、どうした」
「いえ、なんでも。もうそろそろ私たちの番ですね」
正面に向き直るとイルカが口の上にボールを乗せた絵や、アシカが手を振る仕草をしている絵が描かれているガラス窓が目界に入る。
ポップな色彩で、小さな子どもが喜びそうだ。
子ども150円、大人300円の貼り紙が見え、使い古した布地のガマ口財布を取り出し小銭を用意した。
パソコンやスマートフォンを触っていると使わない機能ばかり豊富でうっとうしいが、がま口財布はその逆で必要な機能だけを標準装備していて好きだ。
「大人二人、お願いします」
「こちらロッカーキーです。紛失しないよう、ご注意ください」
会計を済ませ、受付のお姉さんに会釈すると、お姉さんはつまらなそうな顔をしているのにも関わらず、口許だけは緩んでいた。
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yuu_garakuta

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