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恋愛青春小説 「PIKE START」 一年前のあの日 その1

恋愛・青春小説「PIKE START」
09 /03 2017
道路の路肩を歩きつつ、ふと上空を見上げた。
肩を寄せ合うみたいにせせこましく建ち並ぶ、全て黒に塗り潰された家々。
モグラ叩きのモグラのようにちょこっと顔を出す太陽は建物に覆い隠されており、水平線の彼方から届く神々しい橙の輝きが、空を真っ赤に染めている。
幻想的な赤と黒のコントラストに、俺は思わず目を見張った。
駅前の大型ショッピングモールに客を取られて人っ子一人いない、数十年前から時が止まったままの、見慣れたはずの田舎の風景がとても美しく思えた。
四六時中錆び付いたシャッターが降ろされた、経営しているのかしていないのかも定かでない、家族経営のこじんまりした商店。
オスを呼ぶため絶えず発光するホタルのように、明滅を繰り返すスナックの看板。
80年台の人間が、この中途半端な田舎にタイムスリップしたとしても、さして違和感は覚えないかもしれない。
町人たちが生きているという実感を感じないほど閑静で、俺は勝手に陰気臭い街だと決めつけていた。
けど、人々の生き方がそれぞれ異なるように都会と田舎が違う、それだけなのだ。
歩を進めると、赤い三角屋根が目印の、特に特徴らしい特徴のない建売住宅が見えた。
我が家だ。
玄関を開け、、すぐさま二階へ上がり、自分の部屋へすっ飛んでいった。
間取り5帖の洋室で、入ってすぐ左に乱れたシーツのベッド。
右には体幹トレーニング用のヨガマットに、体勢の確認に使う幅80㎝高さ180㎝の姿見、筋トレ用のバランスボール、メディシンボールが置かれている。
右隅の机は、水泳に関する書物や練習器具の物置き代わりだ。
プールバッグを放り投げ、スマホを点けると、画面には「新着メッセージがあります」の通知が連なって表示された。
取り敢えず古い順から片付けていこう。
俺はベッドへ腰掛けた。

桃栗三年金槌十五年 17:05
せんぱい! 酷暑の中、わざわざご指導ありがとうございました(*^_^*)
今日はホントに楽しかったです。
先輩に愛想つかされないよう、私も出来る範囲で頑張りますから、また一緒にプール行きましょうね("⌒∇⌒")
地区高専、しっかり応援しましょう! エイエイオー!

原田からか。
子どもっぽい文体だが、要点をおさえた砕けた文章だ。

パンツ一丁 17:27
俺も補欠だから、声援を送ることしか出来ないのが歯痒いけど、それでもやれることをやるつもりだ。
あと泳げないのを言い訳にしないで、陸トレはサボらず行うんだぞ。

桃栗三年金槌十五年 17:27
押忍!

他にも親しい水泳部員からLINEのトークが届いている。
日常会話は魚と同じで、鮮度が命だ。
俺はなるべく返信が遅れないように適当に返していった。
返信に返信していくとキリがない、この辺にしておこう。

チヒロ 17:31
今、家に着いたよ。
ちゃんと活躍できるか不安で、今、ジムに行ってきた帰りなんだ。
三好くんが居なくて寂しかったけど、明日は今日の分まで話そうね。
私も夕花ちゃんの力になりたいから、いつでも相談して。

小早川からか。
どう返していくのが無難なのだろう。
彼女相手だと、いつもそんなことを考える。
見栄を張って、よく見せようとして、自分が自分でいられない。
文字を入力する人差し指も、心なしか震えてしまう。
ただ切れ切れの思考でも、ねぎらいの言葉と、好意へしっかりと反応を示さなければいけないことは理解していた。

パンツ一丁 17:35
自主練お疲れさん。
大会前に疲れを残さないようにね。
休むことも、スポーツマンには大事なことだからさ。
乗る駅も降りる駅も一緒なんだから、話したいことがあれば、いつでも話せるよ。
『相談して』と言ってくれるのはありがたいけど、原田のことは俺に任せて小早川は地区高専に専念してほしい。
インハイが目の前だから。

無事トークをし終えたという安堵はなく、ただ徒労感だけが残っていた。
この返事で大丈夫か。
今、小早川はこの文面を見てどう思っているのか。
確かめようもない気持ちが知りたくてしょうがない。
センチな気分に浸っていると、何やら遠くの方からドン、ドンと渇いた銃声のような音が響いた。
音の正体は、わざわざ見ずとも分かる。
今は夏だ。
どこかで花火を打ち上げているのだろう。
花火、か。
(千尋先輩と一緒に……ね)
「クソッ、原田のヤツめ。余計なことを思い出させるなよ……」
一年前の記憶が脳裏を掠めた。
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yuu_garakuta

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