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ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第五話

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」
05 /21 2018
数時間後

「やったぞぉ、俺が魔女を倒したんだぁ……ムニャムニャ」
「……ベラちゃん、つれないなぁ。ホントにぃ……」
客たちは完全に出来上がっており、テーブルの背にもたれ、眠りについていた。
酒場には、ブタの鳴き声のようなイビキがこだましていた。
もうこの場所で酔っていないのは、ベラとリチャードの二人だけだった。
「ねぇ、リチャード。さっきの子、70Gも払えるかしら」
「……」
リチャードは答えなかった。
ほろ酔い気分で、右から左へ受け流しているのか。
あえて無視しているのか。
「聞いてるの?」
「リチャード、ねぇってば!」
尋ねる度に、ベラの苛立ちが募っていく。
「ったく要領を得ない物言いだな。いつもみたいに、ずけずけ喋ったらどうだ」
眉間にしわを寄せ、リチャードは憎まれ口を叩いた。
グラスに半分ほど残った蜂蜜酒を、ゴクゴク喉を鳴らして一気に飲み干すと、彼は勢いに任せた。
「これが新調できないのは、誰のせいだ?」
リチャードがボロマントを指先でつまみ、ギロリとベラを睨む。
野性的な剥き出しの敵意が、彼女に向けられた。
虐げられたことに対する憎悪の感情が、その双眸(そうぼう)にこもっていた。
一時の快楽で封じ込めているだけで、敵ばかりの周囲に口にしないだけで、心の奥底でどれだけ苦しんでいるのか。
痛いほどに、彼の気持ちがが伝わった。
「アレ以来この街の連中は、俺と一緒にダンジョンへ行かないからだろうが! このまま俺に野垂れ死ねってのか!」
生きるためには、道徳や倫理を捨てなければいけないこともある。
生活苦が、今の彼に豊かな精神性を忘れさせているのだ。
仕方のないことなのだ。
それに彼は客だ。
私情を挟んではいけない。
心にくすぶるモヤモヤした感情を、必死に抑えつけようとした。
けれど、抑えようとするほどに、昔の溌剌としたリチャードの姿ばかりが頭に浮かんで――。
その頃の彼に思いを巡らせると、ベラの目頭に熱いものが込み上げていた。
客前では、決して見せないと誓った涙だった。
「それは……そうね。貴方にも生活があるもの。……けど、私は」
手の甲で涙を拭って、鼻を啜り、彼女が続ける。
「……フン。小僧どもをカモにしてでも、生きるほうを選ぶぞ。俺はバカ親父のように、無様に死んだりはしないからな」
立ち上がり、リチャードが吐き捨てると、ベラへ背を向けて出入り口に向かっていった。
共に戦ってくれる冒険者などいらない。
信頼できる仲間などいらない。
その背中には、悲壮な決意が滲み出ていた。
「他の人が何を言っても、私は……。貴方のこと、信じてるから!」
気の置けない友人として、ベラは彼へ精いっぱい投げ掛けた。
彼の凍てついた心を溶かそうと、声を大にして。
だが、彼が振り返ることはなかった。
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yuu_garakuta

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